熊本家庭裁判所 昭和47年(家)724号 審判 1972年10月27日
申立人 岩崎ミツ子(仮名)
主文
飽託郡○○村○○△△番地(亡)岩崎みよの相続財産である熊本市○○町字○○△△番地宅地三三坪を申立人に分与する。
理由
申立人は民法九五八条の三による主文同旨の審判を求めた。
昭和四六年(家)第一五八号相続財産管理人選任事件記録と同年(家)第一〇三四号相続人捜索事件記録を総合すると以下<1><2>の事実が認められる。
<1> 登記簿上の住所飽託郡○○村○○△△番地岩崎みよは本件宅地を所有していたが相続人がないまま大正一〇年二月一七日死亡し相続財産管理人島田正夫において民法九五七条および九五八条の手続をしたが相続債権者および受遺者の請求申出も相続権の主張申出もなかつた。
<2> 申立人はみよが死亡した当時まだ出生していなかつたがみよの六親等血族にあたりみよの供養を曾祖父松之助から順造をへて受け継ぎ現在に至つており昭和四五年にはみよの墓を申立人家の墓に合祀し、なお本件宅地の管理もしている。
そこで申立人のように被相続人と親族ではあるが生前縁故はなく被相続人の祭祀や遺産の管理など死後縁故だけしかない者が民法九五八条の三にいう特別縁故者にあたるかを判断する。同法条には「被相続人と生計を同じくしていた者」や「被相続人の療養看護に努めた者」を例示しているところからみると「その他被相続人と特別の縁故があつた者」というのは死後縁故を含まないようにも考えられるが、特別縁故というのは被相続人と親族とが友人などというたんなる縁故だけでは足りず縁故に加えて被相続人に関連する客観的事実を要求しているものであつて該事実には死後縁故を含まないと解する理由はないと思料し、そうとすれば被相続人と親族という縁故があるのに加えて被相続人の祭祀や遺産管理をしている申立人は被相続人であるみよの民法九五八条の三にいう特別縁故者にあたる。
なお民法九五八条の三による申立には被相続人の死後相当期間内になすべしとの制限はないのであるから被相続人の死後五〇年余を経てなされた本件申立を云々することはできない。
よつて本件申立を相当と認め相続財産管理人中川誠一の意見を聴き主文のとおり審判する。
(家事審判官 田尻惟敏)